【3】レストランとお庭の自慢
3-1:GMの演出
料飲出身のGM神山和人はことのほか、会員が満足する料理とは何かには神経を使う。その神山の話を中心に自慢話を紹介しよう。

京都という土地柄、日本料理には長い伝統と高い知名度がある。日本海からの海産物や京野菜等、京都で育んだ食材、たとえば、原了郭の黒七味、聖護院だいこん、麩・湯葉、京鴨、京番茶(松田桃香園の商品で伏見・宇治茶の300年の歴史がある老舗)、伏見の酒蔵等を提供するなど、周辺のレストランとは差別化する。

18年1月に開催した「新春美食会」(キャッチフレーズはThe 京都~主役は京都の素材~)は、食材の多くを京都で調達したメニューを提供しようと試みた。悪戦苦闘しながら、楽しい企画とするよう努めた。19年には、京都らしさをさらに表現すべく、「海の京都、森の京都、お茶の京都」の食材提供を行う予定という。神山の企画は、日本の文化と四季を形にして「動きのあるお料理」「刺激的で飽きのこない」「やっぱり、京都がすき」と感じられるものを志向した。
とくに京料理には長い伝統と高い知名度があり、毀誉褒貶も激しい。京都らしい食材の多くは、たとえば鯖街道を経て流通した加工食品である。これに、周辺地域を産地とする現代の食材(鮮魚・青果・精肉)を加え、京都食材による献立を提供するなど、周辺のレストランとは差別化する。
「八瀬離宮」は、他の一般の宿泊施設とは異なり、スケールメリット(和製英語・規模の強み)を生かせる。和・仏・伊・中・鉄板各コーナーで、それぞれフルコースとスモールポーション(良質素材を用いボリュームを抑える)を用意しており、また、コンベンションでのブッフェがある。1週間連泊しても飽きない食事を提供できる。これはスケールメリットである。
3-2:ある夜のイタリアンレストラン「トラットリア ジョバーノ」
筆者らは、年末の某夜、「トラットリア ジョバーノ」を訪れた。「ジョバーノ」はgiovano、伊語で「若々しい」という意味であろう。
シェフの加藤幸夫(画像下)はジョバーノ(イタリアン)・ボナキュー(フレンチ)両方を担当する。
推奨メニューは下左画像である。推奨コース「ヴェルジーネ(Vergine)」とは「処女」であろう。初々しいということか。それにしても、この献立には筆者にとって意味不明のカタカナがでてくる。その折、テーブルでは説明があったが、原稿を書く段になるとすっかり忘れてしまった。
そこで、後日、そっと内山敏彦(リゾートトラスト・総料理長・専務取締役・右画像)に伺ってみた。
バーニャ・ヴェルデはBagna verdeで野菜とハーブのこと、ファゴッティーニFagottiniは小さな束は餃子状のパスタ。スーゴSugoはスープ、スオSuoは代名詞でフォアグラを指すらしく、フォアグラ風味のソース。リングイネLinguineはロングパスタの一種、グリッリア サルサ ディ ヴィノ ロッソはalla griglia con salsa al vino rossoで赤ワイン焼きとなる。
内山は1947年愛知県生まれ、「帝国ホテル」を経て、1968年21歳で渡独。川端康成や高田力蔵らと知己があって、仏のジャン・ドラベーヌ(フランス司厨士協会長)に師事し、滞欧約11年に及ぶという。1979年から同社に移籍し、現在は同社の和洋中ほか全レストランを仕切る。
2013年、仏国農林大臣から『農事功労章Ordre du Mérite agricoleオフィシエOfficier』の叙勲があった。
出典:http://www.gc-uchiyama.jp/report.html3-3:シェフの加藤との軽い料理談義
以下は、シェフの加藤との軽い料理談義である。シェフのほか、キャプテンの田村秀人、アシスタントマネージャーの土取圭悟から伺った話を含めて構成してみる。
加藤幸夫は神戸御影出身。18歳で料理の世界に入門。鳴門9年、白浜5年、琵琶湖1年2か月、そして17年7月から八瀬離宮に移った。
幅広い会員層に受け入れられる料理の提供は当然だが、たとえば、女性・シニア向けには、柔らかく、食べやすく。塩分控えめ、ただしコクがある料理を提供するというような配慮をする。余計なソースは使わず、軽く、丸く味付けする。翌朝、胃にもたれない、朝ごはんが美味しくなるような夕食を提供する。素材は地産志向で可能な限り京都の食材にこだわる。京都で獲れる野菜に奈良産の和牛、美食会「ザ・京都」では京都産の黒毛和牛も使う。会員にファンが多い。
「八瀬離宮」は良し悪しがよく分かる、目の肥える客が多い。好みに厳しい客もいる。昔のお客が来るのはとても楽しい。
フレンチは事前仕込み作業が多いが、イタリアンは素材重視で客が来てからの調理が多い。ただし近年は「仏・伊の差は少なくパスタ・リゾットの有無くらいか」と指摘する。仏・伊ともにレモン・バルサミコ・トマトをつかったソースを提供し、オイル・クリーム・バターでコクを出す。イタリアンではあまり使わなかったバター・ナッツ・香草(バジル・ウドなど)をも使う。

フレンチのほうがいろいろな香草(タイム・セルフィーユ)を使う。きょうの料理にも30種の野菜を使ってみた。家庭では30種類はそろわない。ベルデ(緑色)のソースは、ホウレンソウ、バジル、ルッコラ、卵黄(コク出し)、大蒜、アンチョビを使う。見た感じがヘルシーである。さらさらしてサラダにあう。独特のきのこのスープは、9~12月は冬菇(どんこ・肉厚のシイタケ)、1~3月はマッシュルームというように季節ごとに変えていく。
新玉ねぎのスープにフォアグラ添えのように、スープに対し細かい泡を加えたりして、柔らかく、コクがあるスープ状の調味液を使って特徴をだすなど、日々に工夫する。お客さまに「京都にきたのなら、あのシェフ加藤幸夫の料理を食べたい、一度は加藤幸夫のレストランに行ってみたい」と言わせること。これが目標である。
しかしながら日本の「八瀬離宮」ゆえに、和食のほうが多いのは仕方がない。
イタリアンは圧倒的に女性好み。日によっては客は女性だけである。40代を中心に若い人もいる。
飲み物はワインが多い。豊富に品ぞろえしたワインを約1000本貯蔵している。バー「カンティーナ」に、レンガ造りの蔵をイメージさせる空間にガラスで囲ったワインセラーがある。なかなか味わい深い雰囲気である。
